貸倒引当金は銀行経営の重要な指標
銀行は預金を集めて、融資や投資を行うことによる利ざやで収益を得ています。
ほとんどの銀行で一番大きな資金運用方法は貸出金(融資)となりますが、融資先の業績悪化などがあれば貸倒引当金を積まなければなりません。
その結果、貸出金の資産価値は減少し、価値減少分を損失として処理しなければなりませんので、貸倒引当金は銀行の業績に多大な影響力を有しています。
2021年現在、日本と海外ではこの貸倒引当金について異なる測定方法が利用されています。
日本基準は「実績志向」
日本においては、永らく金融庁の発行する「金融検査マニュアル」のもと、過去の実績をベースとした引当測定が行われてきました。
銀行の自己査定で利用される情報として代表的なものは以下のようなものがあります。
- 融資先の財務情報(決算書や試算表など)
- 担保や保証の状況(不動産担保や代表者の資産背景など)
これらの情報をもとに債務者区分や格付が決定され、対応する業種毎の引当率などを乗じて引当金額が計算されます。
金融検査マニュアルが廃止された現在においても、多くの金融機関でこの手法が継続して利用されています。
国際基準は「未来志向」
欧州を中心として利用されている国際会計基準(IFRS)では、将来情報に基づく引当金(予想信用損失)測定を行っています。
これは、決して過去情報を利用しないというものではなく、追加的に将来情報を利用するという感覚が近いです。
将来情報として利用されるもの多数ありますが、以下のようなものが挙げられます。
- 予測GDP成長率
- 予測物価変動指数
- 金利 など
予測信用損失についてはIFRS9号にまとまられ、2018年より適用が開始されています。
必然的に多くの情報をもとに計算することになりますが、近年の情報処理能力の高まりを受けて実用に耐えうるものになったのだと想像されます。
どちらが優れているのか?
日本基準と国際基準の貸倒引当金計算について、それぞれ長所と短所があります。
日本基準は将来予測が織り込まれず、コロナ禍のような有事においても実際に世間の会社が倒産するまで引当金が増加しないため、計上金額が「遅い・少ない」といった指摘があります。
一方、将来予測を織り込む国際基準では、「早く・十分に」引当金を計上することは可能ですが、経済指標の変化への感応度が高く測定値が上下にぶれやすいという課題を抱えています。
このようにどちらが一概に正しいというものではないため、投資家は「どのような前提で引当金が計算されているか」をしっかりと認識しておく必要があります。
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