私募債の会計処理
銀行が取引先より引き受けた私募債の会計処理には、日本基準と国際基準とで違いがあります。
国際基準を採用した際に生じる、会計の基準間差異について解説します。
私募債とは
私募債とは企業の発行する債券(社債)の一種であり、「公募の手続きを経て取得勧誘される債券を公募債といい、それ以外の方法をとって取得勧誘される債券を私募債(野村総合研究所)」といいます。
公募債は有価証券届出書などの企業情報を公開するなどの発行要件がありますが、私募債にはそのような要件がなく、簡易な資金調達方法として知られています。
なお、中小企業が私募債を発行する場合、引受人が取引銀行のみというケースも珍しくなく、実質的に借入金と同様の性格を有しているものもあります。
銀行としては、私募債の発行手数料が業績に影響することや、引受銀行がメインバンクとして周知されること(地域新聞で取り上げられることが多い)などから、あえて融資の代わりに私募債を勧める担当者も存在します。また、事業主もそれを承知の上、取引銀行との関係構築のために提案を受け入れることも多くあります。
日本基準での会計処理
日本の会計基準上、私募債は「有価証券」に分類されます。
さらに、取引銀行が私募債を中途で売却・換金する可能性は低いため、大抵の場合は「満期保有目的債券」となります。
有価証券は取得原価(又は償却原価)をもって貸借対照表価額とされ、著しい価値の減価があった場合にのみ減損会計が適用されることになります。例えば、融資先の業績悪化により、債務者区分が要管理先や破綻懸念先になったときなどが該当します。
逆に言えば、融資先が正常先や要管理先出ない要注意先でいる限り、貸倒引当金を計上しなくてもよいとされているのです。
貸出金ならば正常先であっても貸倒引当金を計上しなければなりませんから、銀行にとっては嬉しい取扱いとなっていますね。
IFRS9号での私募債の会計処理
国際基準で日本基準の引当金計上の基準に相当するのが、IFRS9号の金融商品の減損規定です。
この規定では、貸出金のみならず債券も減損(≒引当金計上)の対象となっており、私募債についても引当金を計上しなければなりません。
なお、稀かもしれませんが私募債が売買目的有価証券に該当する場合は、公正価値(時価)評価が適用されるため、減損対象とはなりません。
銀行にとってみれば、私募債も融資も企業に対する資金融通ですので、両者で統一した取り扱いを行っている国際基準の方が現実感覚に近いかもしれません。
もしかしたら、日本基準で私募債に引当金を計上していないことを知らない融資担当者もいるかもしれません。私も、銀行勤務時にはあまり意識する機会はなかったように思います。
与信コスト(引当金)は銀行業績に大きな影響をもたらしますので、これから金融機関の国際基準導入を進めるに当たって主要な論点となってくるでしょう。
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