金融検査マニュアルとは
金融検査マニュアルの正式名称は、「預金等受入金融機関に係る検査マニュアル」といいます。
これは銀行に対するものですが、保険会社向けの「保険会社に係る検査マニュアル」や金融持株会社向けの「金融持株会社に係る検査マニュアル」なども含まれます。文脈によっては、すべてが含まれたり、銀行の金融検査マニュアルのみが意図されていたりします。
今回の記事も、銀行に対する検査マニュアルを指しているものとご理解下さい。
制定の背景
金融検査マニュアルは、バブル崩壊により銀行が多額の不良債権を抱えることになったことがきっかけとなり、平成11年に制定されました。
お金は「経済の血液」です。銀行は血液を循環させるための「心臓」の役割を担っており、潰れると経済に大きな打撃を与えるため、厳しく監督・保護する必要があったのです。
ちなみに金融監督庁(現・金融庁)が発足したのものこの時期です。
そんな金融検査マニュアルは、金融機関の業務の健全性と適切性の確保を目的として制定されました。
検査マニュアルの内容
その内容はチェックリストによる列記形式となっており、「法令順守態勢」「自己資本管理態勢」「信用リスク管理態勢」など多岐にわたります。
その管理態勢は厳しく、銀行にはこのチェックリストに対応するために個別の部署が設置されるほどです。
代表的な規制として債権の自己査定があり、銀行は融資先の業績を毎年査定して、取引先を5つの債務者区分(グレード)に分類していました。グレードが下がると銀行は引当金を積む必要があり、引当金が増えると銀行の業績(利益や自己資本比率)に悪影響があります。
ドラマ「半沢直樹」でも、金融庁検査で引当金計上ですったもんだやってましたよね。
廃止された理由
20年近くにわたり銀行を規制してきた金融検査マニュアルですが、とうとう2019年12月に廃止されました。
廃止された理由は、「時代に合わなくなった」からです。
財務体質の健全性を重視するあまり、銀行は担保や保証に依存するようになり、本来資金が回るべき企業に対する融資に対して消極的となってしまいました。
バブル崩壊時より20年が経過し、銀行の業績も安定したため、「チェックリストによる画一的な規制」が経営の足を引っ張るだけの存在となってしまったのです。
廃止による影響
金融検査マニュアルの廃止により、銀行経営や融資はどのように変わるでしょうか?
将来の結果はわかりませんが、現状劇的な変化は起こっていないように思われます。なぜなら、金融検査マニュアルが廃止された今でも銀行は、検査マニュアルの一部をKPIとして利用し続けているからです。
ほとんどの銀行で検査マニュアルの債務者区分は引き続き利用されており、代替的なものさしが見つかるまでなくなることはなさそうです。
ただし、銀行を取り巻く環境としてFintech事業者や異業種企業の新規参入など、業界構造の変化が続いています。
検査マニュアルの廃止云々よりも、外部圧力により今後業界が進化していくことと思われます。
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